フィールドワーク四方山話

タイ深南部に行く(鉄道・バス編)

通称深南部と呼ばれるパッターニー県、ヤラー県、ナラーティワート県、ソンクラー県の一部は、マレーシアとの国境に位置し、豊かな文化と自然を誇る地域である。今回は鉄道とバスを利用して、バンコクからパッターニー市街地に到着する方法をご紹介したい。

鉄道で行く

人々のあいだで圧倒的人気を誇る(たぶん)移動手段が鉄道だ。バンコクからマレーシアとの国境に位置する駅であるスンガイコーロックまでおよそ1000キロあるため、行くだけで一両日かかってもよいように余裕をもって計画を立てる必要がある。

まず、タイ最古の国鉄ターミナル駅(1916年竣工)、フアランポーンへ向かう。2021年からは新しいターミナル駅であるバンスー中央駅から、ほとんどの列車が発着するようになる。フアランポーンは激動の時代のなかにあってもつねに、故郷に帰る人、田舎を出てきた人、あらゆる人々の希望や悲哀を包み込んできた。アーチ天井に覆われた駅の構内にたたずんでいるだけで、さまざまな人生模様が垣間見える。個人的にバンコクにおける数少ない癒しの場でもあったので、ターミナル駅としての役目を終えることがとても残念だ。

駅の窓口でパッターニー、ヤラー、あるいはそのままマレーシアへという人はスンガイコーロック辺りの駅の名を告げる。電車の切符は、ラマダン明けのお祭りの時期を除いて、売り切れていることはまずないので駅に行ってから買えば十分だ。私は、ヤラー駅が便利だと思っている。外国人観光客が深南部に行くことがほぼないため、ヤラーという時には、駅員にバンコク近郊の駅サラヤーと間違われないように注意しよう。13時頃に出る急行、15時頃に出る特急(これらはスンガイコーロックまで)、22時頃に出るスプリンターがある(こちらはヤラーまで)。700バーツ~(2500円~)。急行、特急、スプリンターといっても早い訳ではなく、到着は翌日の昼前から午後にかけてである。

スプリンターは車内で食事が提供されるが、椅子席しかない。スプリンター以外は食事は出ないが、寝台列車がついている。寝台は1等(エアコン)か2等(扇風機)で、希望する場合はトゥーノンと言おう。エアコン付きのスプリンターと1等寝台はかなり寒いので、上着などを準備しておくことをお勧めする。食事や飲み物は出発前に準備をしておくか、停車した駅で車窓から、あるいは車内まで売りに来る売り子からも購入することもできる。

タイ国鉄ヤラー駅。数年前にちょっとオシャレなアートが施された。右奥は仏教徒とムスリムが共存している様子を描いている。

バスで行く

バンコクのサイタイマイ(南ターミナル)に向かい、深南部各地域行きのバスに乗る。こちらも、チケットが売り切れていることはまずないのでバスターミナルに行ってから買えばよい。ただ、サイタイマイ自体が中心部から遠いので、行くだけで疲れるのが難点だ。出発は15時か17時が多く、値段はだいたい700バーツから(2500円~)。鉄道と同様、1000キロ近い道のりなので、20時間くらいかかることを覚悟で旅をする必要がある。バスにはVIPやファーストなどクラスがあって、クラスの違いで受けられるサービスが異なる(座席というよりアメニティや食事の差)。南行きのバスでは、深夜にスラータニーあたりで一度食事休憩が入る場合が多い。

二度利用したが、深夜の休憩所は大きな体育館のようなところで、クイティアオ(タイのラーメン)の屋台、食堂らしきものも見えた。初めて利用したとき、エアコンで冷え切った体に温かい汁ありクイティアオをば、と思った矢先におまえはあっちだと、ある一角を指さされた。ファーストクラスみたいな名前だったくせに一番低いクラスだったらしく、しょぼい机の上に積み上げられた物資からオレンジジュースとポソポソした菓子パンを一組手渡されただけだった。軍人やおばさんたちが麺をすするのを横目に、みじめな気持ちになったものだ。バスの場合は、自分のクラスをよくよく確認して心の準備をしておくとよいかもしれない。

いざ深南部へ

以上、いくつかの行き方を見てきた。ロットゥ(飛行機編参照)の場合は、ドライバーに行き先を告げたらそこまで送ってくれる。電車利用の場合、国鉄のパッターニー駅で降りる場合は、駅が市街地から離れているので目的地までタクシーを利用する必要がある。ヤラー駅で降りる場合は、駅がすでに市街地にあるのでそこで一泊してもいいかもしれない。ヤラー駅からパッターニー市街地に行く場合は、ホームと反対側に線路をまたいでずんずん歩いていく。列車を待つ人達が憩っている食堂の横にある裏口から出ると、左手にすぐタクシー乗り場が見える。きちんと正面の出口から出たい場合は、出口と書かれた所から出てソンテウが並ぶ駅前を通り過ぎると踏切が見える。踏切を渡ったところがタクシー乗り場だ。わからなければ、誰かにキュー・ロッ・テクシー(ロッとシーに力を入れる)と語尾を上げ質問口調で聞けば間違いないだろう。

ヤラーのタクシー乗り場。向こうに見えるのが駅でオレンジ色の屋根はホーム。写真の向かって右手に踏切があることになる。タクシーはなんと、全部ビンテージのベンツ!中身は日本製のエンジンを積んでいるという噂。深南部では、タクシーといえばベンツだ。このベンツに、客を5人くらい積み込むのは当たり前だ(助手席一人、後部に4人)。一度、子供を入れて6人詰め込まれたことがあった。

40バーツ(約140円)の乗り合いタクシーを利用すると、1時間弱でパッターニー市街地に到着する。深南部各地、風光明媚で雲海が有名なベトンなども、何バーツかかるかは知らないがヤラー駅前(裏?)から行くことができるので便利だ。長距離バスの場合、パッターニーのバスターミナルは街の中心からほんの少しだけ離れたところにあるので、目的地にはタクシーかバイクタクシーで向かう。行き先については、どこの鉄道駅、バスターミナルからでも、インターネットに載っている中級以上のホテルならば確実に連れて行ってもらえるはずだ。素敵な旅を!!

(文:西 直美)

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