フィールドワーク四方山話, ミャンマー

国軍によるクーデター

ミャンマーの政治に関しては深くは理解できていないところもあるので、やや気が重いが、やはり2月1日にミャンマーで発生したクーデターについて触れねばなるまい。昨年11月に行われた総選挙を経て、議会の初日であった2月1日、かねてから総選挙にかんして不正を主張していたミャンマー国軍がアウンサンスーチー氏はじめ閣僚らを拘束し、今後一年間にわたる国家非常事態を宣言したのである。そして総選挙をやり直して、勝った政党に政権を委譲すると発表した(今の選挙制度でやり直したところでNLD(国民民主連盟)が勝つと考えられるが)。今回のクーデターの詳細は、すでに多くの記事があるのでそちらを参照してもらうとして1、ここでは連絡を取ることができたヤンゴン在住の私のミャンマー人の友人たちが、今回のことをどのように感じ、また語っていたかを紹介したい。

2人の友人と2月2日に電話で話した。まず、ヤンゴン在住で会社経営者のアウンさん。2月1日日本時間で午前10時ごろ(ミャンマー時間で午前7時半ごろ)、すぐに「クーデター、起きたっぽい」とLINEが届いた。その後2月2日の日本時間で夜中の24時ごろ、LINE通話をした。2月1日から、通信が遮断されたらしいというようなニュースが飛び交っていたが、このときも「Wifiは使えないからモバイルデータを使っている」とのことだった。もう一人は、ヤンゴンで教員として働く友人である。彼女とはMessengerでビデオ通話ができた。Wifiだったかはわからなかったが、通信状況はよくなかった。

数日前から異変

アウンさんによれば、数日前からよからぬことが起きそうだという異変を感じていたという。1月28日ごろ、高級ホテルのユザナホテル近く(バハン地区)にあるUSDP(連邦団体発展党。国軍系の政党)の事務所にて、それまで立てていなかった旗が次々に立ち始めていたという。彼は毎日その前を通っているので、この新しい動きにすぐに気づき、不審に感じた。ちなみにUSDPは総選挙で議席をそれまでの41議席から33議席に減らしている。

1月29日にはシュエダゴンパゴダの東門のあたりで(その付近にある弁護士団体に向けて?)、軍政支持団体によるデモが行われるようになったという。彼らはおそらく軍に雇われているのではないかともっぱらの噂である。USDPが背後にいると考えれば、事務所に旗を立て始めたのも納得である。デモでは「今こそ軍の力が必要である」と叫ばれていた。30分から1時間ほどのデモ活動のようだった。

なお、アウンさんによれば、アウンサンスーチー氏はすでに国軍の不穏な動きに警戒を強めていた模様とのこと。1月末の時点で、不要不急の外出を控えるようにと、NLD幹部を通じて国民にメッセージを出していた。また活動家の中には早くから逃亡を始めた人もいるようである。

1月30日には軍政支持者によるデモの人数が明らかに増加していたという。このようなデモを起こして、市民を刺激しようとしているのだとのこと。この日には、NLDのTシャツを着ていたサイカー(輪タク)運転手が、雇われ団体のメンバーと見られる男性に暴行を受けるなどの事件も発生した。こうした軍政支持活動は翌日にも見られた。

1月30日、軍政支持を叫ぶ大規模デモ。かなりの人が参加している。
本当の支持者はどれくらいいるのか。雇われている人がいるなら、どれくらいいるのか。

ちなみにアウンさんの話では、USDP党員は喫茶店などに紛れ込んで、暇そうな人(政治に興味がなさそうな人?)を捕まえては、仲良くなって、言葉巧みに洗脳していくのだという。「SNSもこんなに発達していて、あらゆる情報が手に入る時代にやることじゃない。だまされる人はいない。」と呆れていた。果たしてこの手に引っかかって、USDP支持に乗り換えるような人がいたのかどうか。

クーデター発生

このような経緯を経て、2月1日早朝にクーデターが実行された。寝起きにこのニュースを聞くことになったミャンマー人の深い絶望は察するに余りある。その後のニュースは日本で連日報道されているとおりである。生活面においては、不測の事態に備えてお金をおろしておこうと銀行に人が殺到して、混乱状態になっている、日用品をストックしておこうと、スーパーに人が詰めかけている等々。こうした混乱は一時的なもので今はだいぶおさまっている。国軍はと言えば、国民からの圧倒的不支持を尻目に、着々と新閣僚を発表するなど、体制を整えつつある。

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2月2日のヤンゴン。雇われ団体らしき人々を載せたトラックが走り回る。
軍政支持のアピール活動を行い続けている。
お坊さんの姿も見られる。「偽物かもしれない」とのこと。(撮影Aung Aung Oo)

国民の反応

クーデターに対する国民の反応はどうだろう。アウンさんは「みんな呆れてますよ。国軍のこんなやり方は今の時代通用しない。下手に市民が抗議デモでもしたら、それこそ国軍が乗り出す口実を与えるだけで、思う壺だ」といったんは冷静になるべきだと語っていた。さらに、「俺はいつだってこの国を捨てられますよ。ミャンマー国籍を持っていても意味がないのなら別にしがみつく理由はない」とも語る。怒りと諦めが入り混じっているようだ。日本語を流暢に操る彼ならではの発想かもしれない。

ヤンゴンで教員をする別の友人は、公務員として去年の選挙を選挙会場でサポートしたという。選挙の不正を主張する国軍に対する怒りをあらわにする。「選挙はかなり厳正に行われていた。不正などできるわけがない。外国からも監視されているのに。これだからミャンマーはいやだ」心底この状況に辟易している様子だった。そしてクーデターのせいで新型コロナウイルスのワクチンが予定通り輸送されなくなることを懸念していた。

アウンさんも語るように、クーデター直後は過度に反応せずに、冷静になるべきという雰囲気もあった。しかし徐々に国民の怒りは顕在化してきていると言える(それでもタガが外れて暴徒化するというようなことは一切ない。落ち着いて、しかしはっきりと意思表示をしている)。たとえばヤンゴンでは夜に住民がいっせいに鍋などを叩いて「悪霊払い」を行っている。こうした「悪霊払い」や国家斉唱、また映画『ハンガー・ゲーム』にちなんだ三本指を掲げる写真や動画がFacebookやInstagramなどのSNSに溢れている。俳優ら著名人ら、また医師や教員、教育省の役人などの知識人たちも率先して抗議活動をSNSにアップしており、SNSを通じた抗議活動は広がりを見せている。

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アウンさん一家も参加。子供も大人もみんなで叩く。
騒音による悪霊払いはミャンマーでは伝統的に喪中に行われる。
(2月2日。撮影Aung Aung Oo)
#civildisbeidienceなどのハッシュタグをつけて抗議活動。
赤はアウンサンスーチー氏率いるNLDのテーマカラー。

もっともこのような状況を軍が放置するはずもなく、Facebookは4日には遮断された(VPN接続で実際には使えるが)。またInstagramおよび、この機会にみな次々に開設しだしたtwitterも遮断された模様である。アウンさんは4日にtwitterアカウントを開設したが、彼のアカウントは現在凍結されている。また国軍側は抗議活動の参加者を見せしめ的に逮捕するなどして締め付けを強化している。そんななか今日(2月6日)には、ヤンゴンで1000人規模の抗議デモが行われたというニュースを目にした。あまりに緊張が高まって最悪の事態にならないことだけを祈りたい。

  1. 記事が多すぎてかえってわかりにくいかもしれない。加えて日本メディアの記事には偏ったものも少なくないも事実である。個人的にはとくに以下の記事が参考になった。

    「スーチー氏拘束、文化人にも波及か 識者がみた軍の意図」(朝日新聞デジタル、2021年2月1日)

    「「日本人はスーチーさんを誤解」 ミャンマー取材27年の記者が読むクーデター」(朝日新聞Globe+、2021年2月3日)

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