堂本印象の鳥居があると知り、大岩街道から参道を登って大岩神社を目指したのが2月中旬のこと(前回記事「大岩神社をふもとから」)。その時は、印象の鳥居には辿り着いたものの、不気味な雰囲気に圧倒され、また道を塞ぐ倒木が決定打となって、本殿も展望所も見ずに途中で帰ってしまった。そこで、3月中旬のある朝、再度大岩神社を訪ねることにした。今回は、墨染通の峠付近、古御香宮の角から北東に伸びる道を通って神社を目指すコース。ただ、墨染通は狭い上に交通量が多いので、峠付近までは通りの北側の住宅地を抜けることにした。
出発早々、子は朝寝を始めてしまった。目的地を目指して黙々と歩く。坂道がひたすら続く上に、道が退屈でたまらない。
問題含みの山
自宅から30分ほど経って、老人ホームの前に着いた。ここから竹林の中を進む。道は未舗装だが、車一台が通れるくらいの道幅がある。歩いていると、「不法投棄禁止」の看板がやたらと目についた。前回記事では大岩街道が長年公害問題を抱えていたことについて少し触れたが、実は大岩山でも長いあいだ不法投棄が横行していた。2007年から住民と行政が協力して美化運動を行い、大岩山を綺麗な里山に再生する活動を続けているそうだ1。山頂付近に展望所が設けられたり、山道が「京都一周トレイル」に組み入れられたりしたのも、こうした活動の一環らしい。人の出入りを増やすことで、不法投棄をしにくくしようということだろうか。林道沿いにはまだ、ところどころゴミの塊があって、「ゴミ山」だったころの面影が残っていた。
5分ほど行くと、京都一周トレイルの標識が立っていて、「墨染め通り750m」「大岩山展望所600m」と書いてある。このあたりから道の勾配がひどく急になった。今回この道を選んだのは、前回よりも楽に神社本殿を目指そうと考えたからなのだが、間違いだった。眠りこけてぐったりしている子を抱え、引き返すべきか否かと自問しながらえっちらおっちら坂を上る。しばらくすると、坂道は続いているが、視界が開けてきた。左手にはメガソーラー(大規模太陽光発電所)が広がっている。そして右手は、竹の茂みの隙間から、山肌が露出した斜面が見える。このはげ山になっている一帯が、この山で今一番問題になっている場所だ。この件については勉強不足でよくわからないことが多いのだが、そばを通ってしまったからには触れないわけにもいかないだろう。とりあえず、そこそこ信頼できそうなネット記事を参照しながら、簡単に紹介しておきたい。
土砂崩れ
2018年7月26日付の毎日新聞の記事によれば、同年7月5日〜7日の西日本豪雨の際、大岩山南側の斜面で土砂崩れが起きた。ただしこれは単なる自然災害ではない。災害に先立つ同年1月、京都市は住民の通報から、崩落箇所を含む土地で建築残土の大規模な不法投棄、および無許可の造成が行われていることを確認していた。問題の発覚後、3月から崩落防止工事が始まっていたのだが、その土砂が、豪雨で雨で崩れてしまったのだ。土砂は沢筋に沿ってふもとまで流れ落ち、住宅街から10m山側にあった溜池を埋め尽くしてしまった2。10mというとプリウス2台分強、間一髪だ。
産廃の不法投棄が行われているという住民の通報を受けて残土の搬入状況を確認した京都市は、持ち込まれたのはあくまでも「土砂」だったと見ているようだ。だが、流れ落ちてふもとに堆積した土砂には、「乾電池、ドラム缶、各種金属、プラスチック片、コンクリート片」といった産業廃棄物が含まれていたそうだし3、今回歩いた道からも、斜面崩壊があったところとは別の作業現場の土砂にコンクリート片などの産廃があるのが遠目からでも確認できた。京都市の説明によれば、「土砂としてもう一回使われることが認められる」と判断されれば、ある程度の産廃が含まれていても「土砂」と見なされる。しかもその判定には明確な基準はないらしい4。こんなものなのかもしれないが、なんとなく釈然としない。土砂に産廃が入っていれば、それはどこまでも「産廃が混じった土砂」だろうと思うのだが。含まれている産廃が多ければ「たくさんの産廃が混じった土砂」、少しであれば「産廃を多少含んだ土砂」だろう。役所が事実を記述する言葉には文字制限があるのだろうか。
かつてこの辺りには、長い間、ゴルフコースがあった。ところが(ゴルフ会員権の売買を行なっている埼玉県の会社がゴルフ会員権相場に関する情報等を発信しているサイトによれば)所有・経営・運営会社の「伏見桃山ゴルフクラブ」が平成13年(2001年)に土地と建物を外資系ファンド「マハリシ・グローバル・ディヴェロップメント・ファンド」に売却、以後運営会社として活動するも、結局2008年に倒産してしまう。その後、別の会社がファンド会社から受託して営業を続けるが、2014年は営業そのものも停止。「マハリシ・グローバル・ディヴェロップメント・ファンド」は跡地の一部にメガソーラーの建設を行う5。このメガソーラーは今、ふもとの六地蔵〜醍醐あたりからもよく見えて、とても異様な雰囲気を醸し出している。『日経クロステック』の2020年11月19日付の記事によれば、土砂の不法投棄があった土地の現在(記事掲載時)の所有者は「ジャパン・プロパティーズ・ホールディングス」、管理者は「マハリシ・グローバル・トレーディング・ワールド・ピース」になっている6。「マハリシ・グローバル…」は、事故発生時にすでに土地の管理者だったようだ。同社は実際の管理をさらに他の会社に委託していたらしく、不法投棄はこの委託先が勝手にやったことだとして、損害賠償を求めて委託先を提訴している7。
ところで、私ははじめて「マハリシ・グローバル・トレーディング・ワールド・ピース」という文字の並びを見たとき、失礼ながら、ヒッピー文化にかぶれた現代の若者が軽いノリでつけた名前なのだと思った。だが、実際にあのマハリシ・マヘーシュ・ヨーギー8と無関係ではないらしい。この会社、現在も同じ名前であるか確認は取れていないが、2018年に事故後の災害防止措置不履行について「行政代執行法第3条第1項の規定に基づく戒告」9を受けたときの所在地(栃木県須塩原市)は、「株式会社マハリシ総合研究所」の事務局住所と同じだし10 、「一般社団法人 マハリシ総合教育研究所」の所在地とも同一である11 。ふたつはいずれも、マハリシの「超越瞑想(TM)」の普及・布教に取り組んでいる(おそらく同一の、あるいは関連の深い)組織である。なお、2001年にゴルフコースの所有者となった「マハリシ・グローバル・ディヴェロップメント・ファンド」の日本支店の所在地も、先のゴルフ会員権相場情報サイトによれば、栃木県の同じ住所である。また、「一般社団法人 マハリシ総合教育研究所」HPでは、関連会社として、京都府で大規模開発を完成させたというメガソーラー開発会社が紹介されている12 。さらにYoutubeでは、「マハリシグループ」のチャンネル名で、大岩山のメガソーラーの空中映像が公開されている13。登場人物は案外限られていそうだ。
展望所
荒涼とした埋立地とソーラーパネル群をわき目に坂道を登り続けてようやく峠だと思われる地点に着くと、左手に展望所があった。京都の南側を一望できる、とても見晴らしのよい展望所である。場合によっては歩く練習ができるかもしれないと思って子に靴を履かせて来たのだが、それには少し狭すぎた。でも、弁当を食べたりほっと一息つくにはぴったりだ。
景色を眺めていると、人の話し声が聞こえた。展望所のすぐとなりは大岩神社本殿だ。先客がいるらしい。(後編へ続く)
- 「伏見・深草で里山の緑と神社の再生へ地域連携 冊子『10年の軌跡』も作成」、『伏見経済新聞』、2017年3月25日、https://fushimi.keizai.biz/headline/241/、(閲覧日:2021年3月27日)。
- 「不法投棄の土砂が崩れ、住宅目前に 京都伏見」、『毎日新聞』、2018年7月26日、電子版、https://mainichi.jp/articles/20180726/k00/00m/040/188000c(閲覧日:2021年3月27日)。
- 釜井俊考「京都市伏見区小栗栖の土石流災害」(「平成30年7月豪雨による斜面災害等に関する調査報告」)京都大学防災研究所斜面災害研究センター、2018年7月30日、http://landslide.dpri.kyoto-u.ac.jp/report/2018/20180730_fushimi.pdf(閲覧日:2021年3月29日)。
- 共産党の市議会議員が公表している次の質疑文字起こしを参照した。「京都市自身が不法投棄の監視パトロールをしながら、大量の土砂搬入ストップできず!?(2018年10月9日/決算特別委・環境政策局・やまね)」、『日本共産党京都市会議員 やまね智史』、2018年10月9日、http://yamane-tomofumi.jp/activity-diary/1474 (閲覧日:2021年3月29日)。
- 「伏見桃山ゴルフコース(京都)の元運営会社が自己破産」、『椿ゴルフ ゴルフ会員権相場 月・水曜日更新』、2008年8月22日、https://www.mmjp.or.jp/tubaki-golf/newsfail/2009/0821-fushimimomoyama.html(閲覧日:2021年3月28日)、「伏見桃山ゴルフコース・7月から閉鎖し、メガソーラーを建設」、『椿ゴルフ ゴルフ会員権相場 月・水曜日更新』、2014年5月14日、https://www.mmjp.or.jp/tubaki-golf/newsfail/2014/0514-fushimimomoyama-golf.html(閲覧日:2021年3月28日)。
- 真鍋政彦「山に“捨てられた”建設残土が崩れる」、『日経 XTECH』、2020年11月19日、https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/ncr/18/00113/111300007/(閲覧日:2021年3月28日)。
- 「不法投棄の残土、西日本豪雨で崩落 民家に迫り『不安』」、『朝日新聞』、2018年8月31日、https://digital.asahi.com/articles/ASL804TRLL80PLZB00K.html?iref=pc_ss_date_article (閲覧日:2021年3月28日)。
- インド出身のグル。ビートルズが一時期彼の思想に傾倒していた。ホワイトアルバムの収録曲の多くはインドのマハリシのもとで修行している間に書かれたという。
- 京都市都市計画局都市景観部開発指導課「行政代執行法第3条第1項の規定に基づく戒告」、2018年10月2日、http://www2.city.kyoto.lg.jp/somu/bunsyo/kouhou/h3010/1002/1002_7.pdf (閲覧日:2021年3月27日)。
- マハリシ総合研究所「会社案内」『静寂のひととき…TM瞑想』、1990年11月18日、http://tmsite.blog40.fc2.com/blog-entry-476.html (閲覧日:2021年3月27日閲覧)。なお、「会社案内」記事の末尾に「1990.11.18」と記載されているのだが、本当に、yahoo!登場前の記事なのだろうか。私の勘違いなのだろうか。
- マハリシ総合教育研究所「会社概要」、https://maharishi.or.jp/company-profile/ (閲覧日:2021年3月27日)。
- マハリシ総合教育研究所「グループ企業」、https://maharishi.or.jp/group-company/ (閲覧日:2021年3月27日)。
- https://www.youtube.com/channel/UCDKqO9eQpmYFg1TBNYIkH7g
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