フィールドワーク四方山話, ミャンマー

懐かしのミャンマーポップス

前回から音楽つながりで、いろいろと自分のミャンマーでの思い出が蘇ってきたので、覚えているままにわっと書きました。約10年前にミャンマーでよく聴いていた音楽です。

MP4屋さん

今はみんなスマホで音楽を聴いているが、私が留学していた当時はスマホを持っている人はごく僅かだった(過去記事参照)。一人で音楽を楽しみたい場合はMP3プレーヤーとかMP4プレーヤーが主流だった。そのころは路上でも安いMP3・MP4プレーヤーを売っていたような気がする。とにかくみんな持っていた。これくらいしか娯楽がなかったというのもあるかもしれない。

残念ながらMP3やMP4プレーヤーの写真がないが、
こんな感じでプレーヤーも売られていたような気がする。(2009年、ヤンゴン)

街角には「MP3、MP4入れます」みたいな看板を出した小さなお店(「MP4屋さん」と呼ぼう)がいっぱいあって、そこに自分のプレーヤーを持って行き、希望する曲の音声データや動画データを入れてもらうという仕組みになっていた。たしか1曲200チャットくらいだったような?アルバムの曲もバラ売りしている。iTunesで1曲単位で購入するのとやっていることは同じで、しかも機械に疎くてもお店の兄ちゃんが全部やってくれるからMP4屋さんのほうが格段に便利だ1

MP4屋さんはそこそこもうかる商売だったようだ。マンダレー外国語大学の日本語専攻卒業で、日本語がとても上手でそれを活かしてホテルで働いていたという知人がいた。何年かぶりに会ったら、もうホテルは辞めてしまって、今は友人とMP4屋さんをやっているんだ、とのことだった。せっかく大学まで行って日本語ができるのにもったいないなぁと思ったが、MP4のほうがもうかるし楽だから、というようなことを言っていたと思う。学歴にこだわらないこのマインドは見習いたいものだ。

結局私は自分で入れにいったことはなかったが、貸本屋の友達が「最近のヒット曲を入れてきてあげよう」と言うので、自分のiPodを渡して入れてきてもらったことがある。今でもその時に入れてもらった曲がiPodに入っている。今となってはほとんどどれもがYoutubeで聴けるし、iPodの調子も悪いのでほとんど見返すことがなかったが、前回の西さんの記事を読んで、ふとiPodのことを思い出して、プレイリストを見てみたくなった。

たしか友人が入れてきてくれたのは数曲だったような気がする。そのあと帰国してから自分でもミャンマーポップスの動画を入れたので、プレイリストを見返すと、けっこういろいろ入っていた。アウンラ(Aung La)、ワインワイン(Y Wine)、ミョーヂー(Myo Gyi)、アーザーニー(R Zarni)などの曲だ。みんなミャンマーではかなりメジャーな男性ロック歌手。2010年当時ヤンゴンの喫茶店やスーパー等、どこに行ってもかかりまくっていた。当時もけっこう聴いたけれど、今聴いても普通にいい曲だ。

超人気ロックバンド、アイアンクロスのボーカル・ミョーヂー「赤の他人さ」
失恋した男性の心を歌う。
友人がiPodに入れてくれた曲で、好きでよく聴いていた。
シンガーソングライターのアウンラ「遅すぎた鳥」
歌い出しのリズムがコーヒー豆&コーヒーミックスになっているのに注目。
なぜピアスにモザイクを入れているのだろうか?
もういっちょアウンラで「ごめんなさい」
相手役の女優はタトゥーの記事で紹介したティンザーウィンチョー。

コピー商品も豊富

音楽を聴く手段は、MP3かMP4以外だとCD、VCD、DVDだ。スーパーマーケットのCDコーナーに行くと正規で出回っているCDなどが購入できる。普通はアルバム1枚が1500K~2000K(150円~200円)くらいだったと思う。しかし、CDコーナーはいつ行っても人がほとんどいない。なぜなら一歩スーパーの外に出ればいくらでも激安のコピー商品が出回っているから。正規品を買うのがバカバカしくなるくらい値段が違う。たぶん1枚200K~500K(20円~50円)くらいではなかっただろうか。

道端ではCD屋がたくさん並んでいて、そこに行けばなんでもそろっている。アルバム1枚を完全にコピーして、ジャケットも印刷して、薄い透明シートに入れて売っている。VCD(Video CD)は中国はじめアジア~東南アジアで広く流通している媒体で、普通にパソコンやDVDプレーヤーで再生できる。しかしこれは完全に違法行為で、アーティストには一銭も入らないから、作り手としてはたまったものではない。

左手前が海賊版を売る露店。
外国映画、韓国ドラマのDVDもある。(2009年、ヤンゴン)

MP3やMP4データで1曲ずつバラ売りするのも海賊行為の一種だった。1曲売れたからといって、その売り上げの一部がアーティストに入る仕組みになっているとはとても思えない。ヒップホップアーティストのターソーはあるインタビュー2でミャンマーの著作権に対する意識の低さを痛烈に批判していた。「なんでみんな400Kのミネラルウォーターを買うのに1500Kの正規のCD1枚を買わないんだ?」彼はこの業界に絶望し、2012年の時点で一度アーティスト活動を引退。ビジネスマンに転身することを表明している(2015年から活動再開)。

数年前にスーパーで購入したターソーのアルバム
左上:『Arlu, Tharku, Nharbu, Gandu』(2015)
右上:『A Mway』(2009)
下:『Yaw Kyin Yaw Ma Yaw Kyin Nay』(発表年不明)
エレクトロ・ヒップホップを経由して伝統音楽を現代風に再構築。
誰も聴いたことのない音で、若者の支持を集めている。


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久しぶりにYoutubeでミャンマーポップスを漁っていたら、もう全然知らない人たちばかりで、取り残された感が否めなかった。ミャンマーに住んでいなければ、知らない間に耳にすることもないから仕方がないけれども。今後はもう少し意識してキャッチアップしていこうと思った、そんな2021年夏の日の夜。

  1. 当時のミャンマーでは自宅で音声データや動画データをMP4プレーヤーなどのデバイスに入れるということはなかなかできなかった。パソコンを所有する家庭は稀だった。
  2. https://www.mmtimes.com/lifestyle/939-musician-thxa-soe-ends-career-to-make-money.html

2 コメント

  1. 飯塚 由紀夫

    とても興味深い話ばかりで、ミャンマーが身近に感じられますね。アイアンクロスの曲は、どの曲も素敵でこのところ毎日聴いています。貴重な体験レポート楽しく読ませていただいてます、有り難う御座います。

  2. コメントをありがとうございます。アイアンクロスは親しみやすい曲が多いですよね!ここのところ記事を更新できていませんが、ミャンマーのかつての記憶を掘り起こして、またレポートを書いていければと思います。コメントをいただきとても励みになりました。

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