フィールドワーク四方山話

タイの麻薬ソング

以前の記事で、ガンジャやクラトムの合法化に触れた。タイにおいてガンジャやクラトムは、1979年麻薬取締法によって処罰の対象とされてきた。ガンジャは2019年2月18日付の官報で医療目的の使用が合法化され、クラトムは2021年5月26日付の官報で非合法薬物のリストから除外されている。ガンジャはまだ一般人の栽培や所持は禁止されているが、クラトム関係で逮捕されていた人々は解放され、闇市場で売買されていたクラトムは一気に日の当たるマーケットに姿を現すようになった。わたしはFacebookが苦手で見ていないのだが、ラインのグループなどで皆がヘーハーしている(浮かれている)様子が日々伝わってくる。オジサンや青少年たちがコソコソ買って飲んでいた時代が、まるで嘘のようだ。

9月10日、元々は深南部の政治や社会についての情報を交換する場だったはず?のライングループに来たお知らせ。思いっきり売り出されている。

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クラトムやガンジャが、タイのルークトゥンのテーマになってきたということを最近知った。ルークトゥンというのは大衆音楽の一つで、演歌や歌謡曲のようなものだ。ルークトゥンの父といわれているのが、1920年バンコク生まれ(スパンブリと言われることもある)、1938年から歌手活動を開始し、いろいろやりすぎて1969年に肺ガンで死んだカムロン・サムプンナーノンである。独裁政権が続いた激動の時代に生きた彼が、まさに、クラトム・カンジャ~とタイで初めて堂々と歌った人物だった。YouTubeにあげられていた以下のアルバムの2曲目がクラトム・ガンジャ、4番目がコンバー・ガンジャ(ガンジャ狂い)である。クラトム・カンジャは、金持ちはより金持ちに貧しいものはより貧しく、けど自分は問題だと感じたことはない、ただ1つだけ、ガンジャを僕にくださいといったふうに、憂き世を忘れさせるガンジャをソフトに歌っている感じだが、コンバーの方は浮気する妻以外人生で何も残らなかった若い男がヒステリックにゲラゲラ笑いながらガンジャを吸うという、ちょっと狂気を感じる作品となっている。

その他、アルバム10番目のバーンヤーイホーム(ホームおばあさんの家)では、愛することを学ぶのはガンジャを吸うことより難しい、どうして愛はガンジャより難しいなどと歌われていたりする。ちなみに、これはラブソングだ。

ルークトゥンには人生の悲喜こもごもを歌ったものが多く(主に浮気)、かつ歌手の歌唱力がすごいという共通点はあるが、カムロンのようにジャズっぽいのもあれば、ロックやヒップホップなどの要素が強いものもある。女性シンガーはバックダンサーを従えて、セクシーな衣装を着て踊っていることも多い。ルークトゥンのうちで、プアチーウィット(生きるための歌)というジャンルがある。カムロン・サムプンナーノンの政治や社会問題に対する風刺を盛り込んだルークトゥンが、プアチーウィットの始まりと位置付けられることもある1。一般的に、プアチーウィットを代表する存在と認識されているのが、カラワン(キャラバン)やカラバオ(水牛)だ。世界的に有名で、日本でも学生運動の世代(?)に絶大な人気を誇っているバンドである。貧困、難民から田舎の暮らし、自然、民主主義まで、さまざまなテーマが歌われている。カラバオのガンジャという曲(タイ語と英語がある)は、なぜ自分を傷つけるのかと語りかける。英語版の歌詞の最後はpass out とマイルドになっていたが、タイ語版では最後にはガンジャで「死んだ」と締めくくられている。

カラバオのガンジャ。

プアチーウィットのジャンルで有名なバンドのなかに、マリワナがある。もちろん、マリファナに由来している。個人的には、カラワンやカラバオより好きだ。YouTubeのオフィシャルチャンネルで、マリワナを率いるファンキーなおじさん(※バンドを始めた時はシラパコーン大学の学生だった)カタウット・トンタイが、カムロンのクラトム・ガンジャを歌いながら、本物のガンジャのカヲリを吸い込んでいる様子を見ることができる。ちなみに、カムロンのクラトム・ガンジャは、カラバオやマリワナもカバーしている。

ルークトゥンや東北タイの大衆音楽であるモーラムについては、日本にもたくさんのファンがいるので是非、気合の入ったファンのブログを探してみてほしい。私が注目しているのは、モーラムとルークトゥンをアレンジして各地のクラブを沸かせている日本人のDJユニットSoi48だ。一度だけ、京都のクラブイベントに参加をしたことがある。モーラムに恋する彼らがディスクを回し始めると、モーラムスタイルで手をゆらゆら、身体をゆらゆらさせる観客のあいだに不思議な一体感が生じた。縦ノリ系の若者は誰一人としていなかった。Soi48は、モーラムやルークトゥンだけではなくタイの音楽シーンを語ることができる貴重なアーティストだ。最後に、私がパッターニーにいた頃にモンスター級に大ヒットしていた曲を紹介して今日のところは筆を置きたい。モーラム界出身のインリー・シーチュムポン「コーチャイターレークブートー」。パッターニーのレストラン、雑貨店、タクシー、道端、果てはお金持ちの医者の娘(ムスリム)の誕生パーティでも爆音でかかっていた。電話番号と引き換えにあなたの心を私に預けませんかという歌詞とポップなメロディ、一度聞いたら耳から離れないはずだ。

  1. 例えばThai PBSのドキュメンタリー。https://www.youtube.com/watch?v=CGRshqlr0qA

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