読書メモ

タイ深南部情報(ウェブサイト編)

自分の業績を忘れて検索をしていたときに見つけた「深南部勉強ノート」というブログがある。本業ではないとの断りがあるけれど、とても丁寧に資料がまとめられている。ブログへのアクセスは限られていて、何やらエゴサーチしている研究者ばかりらしい(そのうちの何回かはきっと自分だと思う)。アンテナは壊れ気味で、世の中知らないことばかりではあるが、ここではタイ深南部にかんする情報が得られるウェブサイトについて、わたしが把握できている限り紹介していきたい(随時、追加予定。2025年3月26日最終更新)。

日本語で(も)読めるウェブサイト:日本語で得られる情報量の順

日本語で、かつ、情報量がもっとも豊富なブログ。ブログの主催者の方は存じ上げないが、情熱を感じる。

武装組織とタイ政府とのあいだの和平交渉に力を尽くしてきた、堀場明子さん1。紛争解決・平和構築に関心のある方は、リーダーシップもバイタリティもすごい堀場さんが率いる笹川平和財団のチームの動向を追いかけるべし。ご著作に「タイ深南部・パタニ紛争――なぜ紛争は国際問題化しないのか」川名晋史編著(2019)『共振する国際政治学と地域研究』勁草書房所収などがある。

日本における東南アジア地域研究の一大拠点である、京都大学東南アジア研究所が主催するウェブサイト。東南アジア各国の現状や最新の研究動向がわかる。英語、インドネシア語、タイ語、日本語、ベトナム語で記事が読めるようになっている。深南部にかんしても、ダンカン・マッカーゴ教授やドン・パターン氏など第一線で活躍する研究者・専門家や、若手研究者が寄稿している。日本語訳がたまに、ほんのちょっとだけ怪しいけれど、授業などで配って読んでもらうのにもちょうどよい長さである。

深南部のことを知りたいならば、このサイトである。今でこそ、市民から研究者にいたるまであらゆる属性の人々があらゆるツールを使って発信するようになっているが、Deep South Watchは紛争初期から、客観的なデータに基づいて現地の情報を伝え続けてきた。日本語の記事は少ないが、いくつかある。これらは原新太郎先生(下記参照)が訳した記事だったと記憶する。

深南部には、マレー語パタニ方言を話す人たちがいる。そこで現地の学生に「標準マレー語」を教えていた原新太郎先生が、日本語で発信するために作ったFacebookのページ。マレーシア語はネイティブ以上にでき、タイ語も英語もネイティブなみに使いこなす。シャヒード(殉教)にかんするテーマで研究を続けておられる。

2021年の初頭に、分離独立派組織、タイ政府当局、学者など「和平対話」にかかわっていた人たちがオンラインで集うイベントがあった。司会をつとめた事務局の方が、原先生に通訳・翻訳の助けを求めている様子が何度か聞こえてくる。モデレーターを務めたタパニーさん(右)は、チャンネル3の著名なジャーナリストで、深南部の取材も長年続けておられる。

日本語は不定期で、あまり更新されている気配がない。原先生の動向を追いかけるならば、英語・タイ語で論考を多数出しておられるのに加え2、Facebook上のポストがすべて公開されているので見てみてほしい。私はFacebookを含めてSNSがものすごく苦手なのだが、原先生が主催しているPatani Booksを(年に数回だけでも)チェックするために維持しているようなものだ。SNSで得られた情報を駆使して研究を進める大学院生や研究者もいるのだから、SNSで得られる資源を活かせる技術をもった方は、どんどん活かしていけばよいと思う。

英語の必見サイト(2025年3月26日追加)

このページをずいぶん放置してしまっていた。2025年の2月下旬、パッターニーに行く機会があり、偶然、懐かしい人々と再会することができた。その一人が、四方山話にも数回登場した、あごひげのジョル先生(Dr. Christopher M. Joll)である。立派なあごひげ、サロンをまとってパタニ・マレー語を操る姿は、いつもながら怪しすぎてかっこいい。そして優しく笑う眼鏡の奥には、いつも鋭く光る目、自分の勉強不足をじりじりと問われるようなこの感覚も懐かしい。ジョル先生のプロジェクトを紹介し忘れていたのは、私の至らなさ故である。深南部だけでなくタイのムスリムについて勉強しようとする人は、ここで一気に関連研究を集められるという、素晴らしいサイトだ。

あごひげのジョル先生のウェブサイトを紹介したので、ブラッドリー先生のウェブサイトも紹介せねばならない。1786年に生じたタイとの戦争で弱体化したパタニであったが、18世紀後半から19世紀以降にアラブ世界に名をはせた数々の学者が輩出された地としても知られている。アル=ファトニー(アラビア語にはパの音がないのでファになる)がつく人たちである。ブラッドリー先生のご著作Forging Islamic Power and Place: The Legacy of Shaykh Daud bin ‘Abd Allah al-Fatani in Mecca and Southeast Asiaは歴史に関心がある方は必読書であるが、こちらのウェブサイトには、マレー語(ジャウィ)文献と学者の知の系譜がまとめられている。

The Peace Resource Collaborativeはタイ国内の8つの研究機関が共同して設立した、紛争解決に関する知識やタイ深南部問題の情報共有を主たる目的としたプロジェクトである。2020年には財団として登録された。オフィスはチュラーロンコーン大学(バンコク)、ソンクラーナカリン大学パッターニー校(パッターニー)の2か所にある。ウェブサイトでは紛争関係の資料にアクセスできる。

国際危機グループ(International Crisis Group)は、冷戦終結後のソマリア、ルワンダ、ボスニアなどで危機が噴出したことを契機に1995年に設立された、紛争予防のための調査や政策提言を行うNGOである。タイ深南部に関するレポートは、主に分離主義運動や政府との和平対話に関する分析と政策提言を追いたい方には必須のサイト。

  1. 堀場さんについては、以下の記事がお人柄も含めてよくまとまっている。武闘派も静まる“なでしこ”仲裁 タイ紛争地で日本女性が奮闘
  2. たとえばプラチャータイの英語版記事。https://prachatai.com/english/category/hara-shintaro

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