「むかーし、むかしのことじゃったー・・。」と言いたいほど、私の記憶から遠い昔になりかけているけれど、忘れられないおもひでが・・。カザフスタン/中国(新疆)の国境越えの話が途中で終わっていました。続編大変お待たせしました。
カザフスタンでトイレに備え付けのボウフラ満タンの水がめに驚き、あいさつそこそこ逃げるようにして旅館を出て、カザフスタンの国境も無事に出ることができました。
さて、今度は中国の入国です。カザフスタンから中国の国境までバスに乗り入管前で降ろされました。目の前には中国の五星紅旗(中国の国旗)が大きくはためいています。ついにここまで来れたかと感慨深い思いがしました。建物の後ろには中国の大地が広がってみえます。
陸路で国境越えの人は割と多く、ひとりひとり、パスポートと荷物検査がありました。みんな列をなしてパスポートと荷物検査を受けています。
ついに私の番がやって来ました。係官は仏頂面の女性でした。私のパスポートを見るなり「う、日本人!?なんで日本人がこんなところに・・。ややこしい人にあたってしまった」と表情から係官の気持ちが読み取れます。係官が「あれ?あんたの中国入国ビザは?ビザがないのにどうやって入国するの?」と一言。私が、「えーっと、日本人は15日間ビザ免除なんですよ」と答えると「ふーん、そうなんだ。」とあっさり認めました。陸路で連なる大国のおおらかさをみせつけられたような感じがしました。
パスポートを返され、今度は荷物検査です。これが難儀しました。これでもか、これでもかというように、私の目の前で上下左右、荷物をひっくりかえします。「やばいもの、入れてなかったよね。何がやばいものなんかも分からんが・・、ああ、もっとちゃんと下着類をパッキングしときゃよかった」と私の不安と「乙女心」で気持ちが入り乱れます。荷物はぐちゃぐちゃにされたままスーツケースの検査が終わりました。係官は見落としていません。
「じゃ、その背負っているリュックもこちらに出しなさい」と言いました。言われた通りに差し出すと、係管はリュックサックを遠慮もなく開け(当たり前ですが)手をこねくり回し、ひとつひとつリュックサックから物を出し確認しています。最後に私の小さなスケジュール帳を見つけ左右上下ひっくり返して何度も何度も読み返しています。「何が知りたいねん、書いてあること分かるんか!?」と心の中で入管に暴言を吐いていていました。プライベートなことを書いているのに、遠慮なく見る入管に腹を立てていたのでした。
そんな時に、あるページで一瞬、係官の手が止まりました。係官がずっと凝視しています。「な、何?私何かヤバいこと書いてたっけ?」と焦りが出てきました。そして係官はそのメモ欄を私の目の前に差し出しトントンと指さしました。「これ、どういうこと!?」と係官。指先には、「三股勢力」と漢字で書かれたやばい文字がありました。「まずい。何かに疑われたかしら」と焦る私。「三股勢力」とは、テロ主義、分裂主義、(宗教)極端主義の勢力のことで、中国にとっては敵対する勢力を意味することばです1。実際には、現地でこの言葉が書かれていたら研究調査のために写真を撮ろうと思っていた程度のメモでした。とっさに、「大学の先生が、私にこの人たちには気を付けるようにといわれたので、メモしました」とその場しのぎのデマカセを言いました。(先生ごめんなさい!)すると、「ふーん」と愛想のない係官の返事。また、私のメモ帳を何度も左右翻してチェックしています。
心の中で「次は何が疑われるのかな・・」と思っていた矢先でした。今度も、係官はメモ欄をトントンと指さし、「これ、どういうこと?」と聞いて来ます。緊張の中、恐る恐る見て見ると父の胃癌の手術を主治医から聞いてメモしたページでした。胃の切除部分を絵に描いていたり、胃癌と漢字で書いてあります。中国語でも胃癌は胃癌なので係官にも分かるはずです。「父は胃癌で手術をしなければならないんです。」と答えると、急に係官の表情が神妙になり、「お父さんは大丈夫?」、「どれぐらい切除するの?」「お父さんは何歳?」「お母さんはいるの?」「日本の病院で手術するの?」など根掘り葉掘り聞いてきます。無愛想だった入管が急にぐっと親身になってくれました。
荷物検査も途中でストップして、「入りなさい」とスタンプを押して国境を通してくれました。父が胃癌だから同情して入国させてくれたわけではないと思うけれど、国籍は違えど「人」はやはり「人」。心配してくれていたのです。プライべートなことにズカズカと踏み込んでくるけれど、健康のことに関しては特に親身になって心配してくれるところに中国の国民性を垣間見た気がしました。カザフスタンの出国では最悪な目にあったけど、こうして無事に中国に入国できたのでした。後日談ですが、お蔭さまで父の胃癌の手術は無事終わり元気にしています。
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