ミャンマー, 映画, 番外編(日本)

『THE WAY』体験記③(完)

7.ZOOMトーク~合唱

映画鑑賞後、会場から日本人1名とミャンマー人1名が挙手制で感想を発表する。日本人の方は、この映画のことを全く知らず、この日たまたま近所を歩いていたら行列ができていたから並んでみた(!)という男性だった。ミャンマー人の思いの熱さに感銘を受けたと話し、それがミャンマー語に翻訳される。次のミャンマー人男性はミャンマー語で感想を述べたが、これは(時間の関係上か?)日本語に訳されることはなかった。私も全部聞き取れたわけではなかったし、ミャンマー語がわからない日本人もわずかながらいるわけだから、日本語に訳してほしかったところである。

その後、ZOOMコーナーへと突入した。ZOOMのセッティングにてこずっていたようだが、無事に監督はじめ関係者とZOOMでつながることができた。このコーナーに至ってはほぼすべてミャンマー語でのみやりとりが行われていた。「日本でもこれだけの人が見に来てくれて、本当にありがたいです。」ぐらいは聞き取れたが、込み入った話になると、私のミャンマー語力では聞き取りは困難だった。やはりすべてとは言わないまでも、重要なポイントだけでも日本語訳がほしかったところである。

次は合唱である。普通の映画上映会ではまずプログラムに組み込まれていないであろう。合唱では、LYNN LYNNによる主題歌「THE WAY」の前半部分だけを抜粋し、ZOOM上でのLYNN LYNNによるギター伴奏に合わせて、会場全体で何度も何度も合唱した。

おそらく参加者のほとんどは、事前にこの歌をYoutube等で聴いていて、メロディーや歌詞を知っている状態だったのだろう。私のようにほとんど予習できていない状態で参加した日本人は若干取り残された感はあったが、大多数のミャンマー人は大声で合唱しており、このコーナーは大盛り上がりだった。ZOOMの向こう側のLYNN LYNNも大阪のミャンマー人の大合唱を聞いて、満足そうな表情を浮かべていた。とくに「自分で選んだ道、自分で歩くべき道、そこに理由なんかない」という歌詞が会場の人々に刺さっていた。

LYNN LYNN 「THE WAY」 

8.オークション~写真撮影

途中からほぼミャンマー語のみでイベントが進行しており、ここはミャンマーかというくらい、ミャンマーワールドでガンガン進んでいく。次は最後のメインイベントのオークションである。今回オークションにかけられたのは著名人のサインが入ったバッグである。よく聞き取れなかったが、THE WAYの監督や女優らのサインなのだろうか。1万5千円から始まったオークションは、はじめはみな様子見といったところで、ぽつぽつと挙手が見られ、少しずつ金額が上がっていくという具合だった。そのうちに5万円、10万円、15万円ぐらいまで値段が吊り上がっていった。15万円でも相当な金額に思うが、MCの女性陣はまったく満足していない。「ほかの地域ではもっと高値がついていましたよ!大阪は元気がない!負けたくないでしょう!?」とミャンマー語で会場をどんどん煽る。

退場予定時間が迫りくるなか、とうとうカウントダウンが始まった。「これが最後のチャンスですよ!10数えますよ!後悔しないでくださいよ!」面白いのは、10、9、・・とカウントダウンが始まると、会場の空気がガラッと変わったことだ。それまでのスローペースとは打って変わって、手を挙げる人が一気に増え始めた。ここまでまったく参戦してこなかった人たちが、会場のあちこちで手を挙げ始めている。そのほとんどが若いミャンマー人で、広い会場を少ないスタッフが走り回って金額を聞いて回るのが追い付かないくらいになっていった。金額が更新されるたびに「25万円出ました!」「30万円出ました!」とMCが叫び、そのたびに会場はどよめいた。会場のボルテージは最高潮に達しており、全体がどこか熱に浮かされたような、異様な雰囲気を感じた。私の近くに座っていた女性も、友人同士と何やら相談しながら手を挙げて、こっちこっち!とアピールしている。すでに相当な額になっているが、挙手するということはそれ以上の金額を提示するということである。万一その金額で競り落としてしまっても彼女は大丈夫なのだろうか?と余計なお世話と思いつつ、心配になってしまった。カウントダウンのギリギリまで競り合いは続き、最終的にサイン入りバッグは65万円(!!)で競り落とされた。競り落としたのは、20代前半と思しき若いミャンマー人女性だった。あからさまにゴージャスという感じでもなく、ごく普通の若い女性である。壇上に案内された彼女はバッグを頭上に持ち上げて「やったわよ!」と一緒に来ている仲間にアピールし、会場からは盛大な拍手を浴びた。

彼女が今日本でどのような身分にあるのかはわからない。学生かもしれないし、実はやり手の若手女社長なのかもしれない。一見するとごく普通の若い女性が、いくらミャンマーの支援になるとは言え65万円で競り落として大丈夫なんだろうかと心配になってしまうが、ふと、もしかしたら競り勝ったのは彼女だが、実際には何人かでお金を出し合うのかもしれないな、と思った。在日ミャンマー人ネットワークを駆使すれば、知り合い65人に声をかけて1万円ずつ出し合えば、なんとかなる(もちろん彼女が1人で65万円を出すのかもしれないが)。

そのほか気になった点としては、5月の上映会のオークションのときにも感じたことだが、競り落とそうと挙手をするのがほぼすべてミャンマー人で、日本人が競売に参加することはなかった点である。なぜだろうか。熱量の差だろうか。たしかにいくらミャンマー支援になるとは言え、ミャンマーの著名人のサインと言われても、日本人にはその価値がなかなかピンとこないのも仕方がない。私も(ちゃんと聞き取れなかったこともあって)そこまでピンと来ていなかった。しかし、本当に理由はそれだけだろうか。仮に日本がミャンマーと同じような状況になったとして、海外にいる日本人のあいだで同様のオークションが行われたとする。そのときにこれだけ値段が高騰して競り合いになるかだろうか。もし家族が残されていたら、やはり同じような心境になるのだろうか。しかし、もし家族や大事な人がみな国外に逃げられていたら?今回のオークションでは、ミャンマーと日本の母国のためにという思いの強さや感覚の違い、ということを思わずにはいられなかった。

オークション終了後、今回の観客を全員を収めた写真撮影が行われた。客を入れていない二階席にカメラマンが移動し、観客全員が二階席のカメラのほうを向いて、三本指を立ててる。これで今宵のイベントはすべて終了。速やかに当初のスケジュール通り、21時15分に退場が始まる。私もお腹が空いていたのでそそくさと会場をあとにし、帰路についた。

夜の大阪市中央公会堂

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ミャンマー人率の高さに驚くとともに、日本語への通訳が途中から諦められた?点など思うところはいろいろあったが、一連のイベントを企画運営する組織力と行動力には素直に脱帽する。彼らを突き動かしているのは母国のために何かしなければという使命感だけだろう。また5月の上映会にしても今回の上映会にしてもミャンマー人だけで盛り上がってしまっているように見受けられる部分もあったので、そこに日本人がどのように協力できるのか、というようなことも考えさせられた。もしかしたら今後も類似の上映会があるかもしれない。ぜひやってほしいし、次の機会には日本人としてできる範囲で協力したいものである(さすがにオークションで競り勝つことはできないけれど…。)(完)

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