ミャンマー, 映画, 番外編(日本)

『THE WAY』体験記①

2023年10月7日土曜日、午後6時半。大阪は淀屋橋。日はもう完全に落ちており、立ち並ぶビルの明かりが川面に揺れる。私の前を歩くのはミャンマー人の若者グループだ。その足取りは軽く、ビル群の夜景をバックに写真を撮ったりなんかしたりして、ちょっとした行楽気分だ。この日私は、ミャンマー映画『THE WAY』を鑑賞すべく、Osaka Metro淀屋橋駅から大阪市中央公会堂に向かっていた。これがなかなか興味深い体験だったので、備忘録を残さねばという気持ちになり、久々に筆を執ってみた(フィールドワーク四方山ネタを捻り出すのにいささか疲れてしまい、ずいぶん空白期間が続いてしまったが…)。いざ書き始めてみると、この『THE WAY』上映会に至るまでの過程についても説明したほうがよさそうだと判明したので、3回に分けて書いていこうと思う。

夜の淀屋橋(写真はイメージです)

1.発端 ―Myanmar Spring Film Festival―

そもそも私はどのようにしてこの上映会を知ったのか、というところから話そう。実はこの『THE WAY』上映会に先立って、ミャンマー映画の上映会『Myanmar Spring Film Festival』MSFF2023 というものが今年の5月に実施されていた。これはたしか『ビルマ研究会』(ミャンマーに関心があれば研究者であろうと実務家であろうと誰でも参加できる緩やかな研究会)のメーリングリストで流れてきて、知った記憶がある。2021年2月のクーデター以来、悪化の一途を辿るミャンマー情勢をフィクションあるいはノンフィクションで伝える計7本の短編・長編映画を、日本全国7か所で上映するという企画だった。

早速大阪(十三のシアターセブン)の上映会に足を運んでみたところ、鑑賞者のオンラインチケットを確認し、腕輪用のシールを配布していたのが私の知人のミャンマー人で(私が筆不精なために長いこと連絡をとっていなかったが…)、思いがけない再会を果たしたのだった。彼はこの日会場全体の統括のために動き回っていたので、ほとんど話はできなかったが、日本の大学院を卒業後、そのまま日本で働きつつ、母国のためにできることはないかということでこうした映画上映会を企画したようだった。

Myanmar Spring Film Festival ポスター「チケット絶賛発売中」
(引用元:MSFFサイト)

この上映会は在関西のミャンマー人が協力し合って手作りで運営していた(おそらくもっと大元で仕切っている団体があり、その関西支部ということのようだ)。映画の上映に留まらず、ミャンマー支援を広く募るために、様々な工夫が凝らされていた。覚えているだけでも、以下三つのイベントが用意されていた。①グッズの販売。Tシャツやバッグの小物のほか、食事や飲み物も。グッズ販売エリアには、今回の映画上映会のポスターがあり、寄せ書きも募っていた。食べ物にはタマネー(餅つきのように作るもち米、油、しょうが、ココナッツを使った料理)があったのを覚えている。タピオカ入りドリンクは複数の果物から選べて1杯500円で販売。ドリンクは、映画開始前にミャンマー人スタッフが場内を巡回し注文をとり代金を徴収、映画上映中に配布していた(ちなみに、私はミャンマーでよくアボガドジュースを飲んでいたので、それが懐かしくなってアボガドを注文。美味しくいただいた)。②7本の映画上映後、監督ら関係者らとZOOMでつなぎ、監督らのトーク(これはほかの映画上映会でも珍しくない)、③ミャンマーの複数の芸能人のサインが入ったグッズのオークション、である。

とにかくこの5月のMyanmar Spring Film Festivalをきっかけに、旧来の知人と思いがけず再会し、母国のために精力的に活動していることを知った。その後9月ごろに、彼からMessangerで『THE WAY』上映会の案内をもらった。これが私が『THE WAY』を知った経緯である。彼から個人的に案内をもらっていなければ、この上映会のことは知らないままだったかもしれない。どういうわけか「ビルマ研究会」のメーリングリストでも『THE WAY』の情報は流れてこなかった。案内をもらってすぐに、これは観なければ!と思った。

2.チケット購入

 そうすると次はチケット購入の段階なのだが、実はチケットの購入方法が少々わかりにくかった。Myanmar Spring Film Festivalでは簡単にネットからGoogle formのページに飛べ、必要項目を記入して入金すればすぐにチケットが買えた。てっきり今回も同じように購入できるものと思っていたら、どうやら勝手が違ったようだ。

上映会の案内として送られてきたのは、FacebookのMyanmar Spring Film Festivalのページだった。そこには「チケットはここから買えますよ」というリンクがいくつか貼られていたのだが、そのどれをクリックしても、Google formのようなページが現れることはなかった(もしかしたら私が見つけられなかっただけなのかもしれないが)。結局どこから買えばよいのかわからなかったので、このFacebookページに「チケットを購入したい」というメッセージを直接送ることにした。すぐに返事があり(というかページを管理しているのが私の知人だった)、メッセージ上で振込先の口座情報を教えてもらい、その場ですぐに振り込みをした。直後に私のメールアドレスに私の名前が印字されたオンラインチケットの画像が送られてきて、これでチケット購入完了、である。

チケット購入方法はこれでよかったのか?と戸惑いつつ、やはり前回のようにあからさまにGoogle formに飛ぶリンクがあれば、そのほうがチケット購入のハードルが低いのではないか。しかし、もしかしたらミャンマー人にとっては今回のような案内でもまったく問題ではないのかもしれない。「あ、チケットが欲しければ、メッセージ送ればいいのね」と即座に判断して、何の苦も無くチケットを購入するのだろう。ミャンマー人にとってFBはインターネットそのもので、FBの機能を余すことなく活用しているから、個別にメッセージを送信してチケットを購入することにもとくに違和感がないのかもしれない。まあ日本人でも、みんな即座にそういう判断をするのかもしれないが…1。とにかくチケットを購入できたので、あとは当日を待つのみ!

日本のみならず、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、韓国でも上映
世界規模で『THE WAY』はミャンマー支援を呼びかける
(引用元:MSFF-KansaiのFB)

ちなみに今回の会場は大阪市中央公会堂で、かなりの大箱である。座席指定はなく、全自由席。上映日が近づくにつれて、チケットの売れ行きが逐一FB上で報告されている(「7割埋まっています!」のように)。今回上映されるのは『THE WAY』という一作品のみで、監督はミャンマーの有名なロック歌手LYNN LYNN(リンリン)2、主演は彼の妻で女優のチットゥーウェーである。ミャンマー初のミュージカル映画というふれこみ。ちなみにチットゥーウェーはミャンマー人女優のなかではナチュラルな魅力を放つ稀有な女優で、私が好きな女優の一人である。(②へつづく)

  1. のちのちFacebookの「Myanmar Spring Film Festival – Kansai」を見返していると、ちゃんと「チケット購入希望者は、FBでメッセージを送ってください」と書いてあった。
  2. ミャンマーでロックと言うとアイアンクロスが思い出されるが、リンリンはアイアンクロスのメンバーではない。年齢的にも少しアイアンクロスの面々より若い。リンリン自身と本作の製作に関しては、参考になる記事があったので、それをもとに別に記事を書きたい。

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