フィールドワーク四方山話, ミャンマー

ヤンゴンの食事情

ミャンマーの食生活について少し書いてみたい。ヤンゴンでの生活は私にはとても快適だった。最大の理由の一つは美味しい食べ物である。選択肢も豊富で、太って帰ってきたくらいだ。日本にはミャンマー料理店が少なく、食べたい気持ちをどこに向けてよいのかわからないので(?)、とりあえずはこの文章にその気持ちをぶつけてみたいと思う。時間があるときに日本で手に入る食材で「ミャンマー料理のようなもの」を作ってみたい。

朝から外食

朝食はたいてい外食で、近所の屋台でモヒンガー(ナマズやティラピアで出汁をとった麺料理)やオンノカウスェ(ココナツ風味の麺料理)、ペータミンヂョー(豆ご飯)、サモサなどを食べる(ほかにもまだまだ種類があり、朝から選択肢が豊富)。私はヤンゴンで一か月ほど友人宅に居候させてもらったことがあるが、家族みんな朝から自分が食べたいものを各自で買ってきて食べていた。テイクアウトして家で食べたり、屋台や喫茶店で食べたりする。人気の喫茶店は朝からものすごく混雑している。これらはあくまでも「軽食」扱いで、きちんとした食事という感覚ではない。食事はあくまでも「タミン(白米)」を指しており、それ以外は「モン(おやつ)」と呼ばれる。ミャンマーの人はこのような「モン」を夕方にもよく食べていた(それでお腹が膨れて、結局夕食はいらない、ということも多々ある)。

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喫茶店の朝食。自分で頼んでおきながら、かなりボリューミー。
イーチャークェ(揚げパン)、ナンジートウッ(和え米麺)、スープ、紅茶。
(2016年3月、ヤンゴン)

近所の屋台にはご近所さんが集まってきているので、屋台が社交の場になっている。日本でも朝マックとか牛丼屋の朝食など朝から外食すること自体は珍しくないが、ほとんどの人が一人で黙々と食べていて、あくまでも胃袋を満たすためだけの場となっている。そう思うと、朝から外食と言っても随分と雰囲気が違うものである。

朝のうちに一家の母親は市場にその日のおかずのための生鮮食料品を買い出しに行く。冷蔵庫はあるにはあるが、頻繁に停電するので、ただ単にミネラルウォーターなどを「ときどき」冷やすだけの箱と化しており、食糧の買いだめはできない(米、ニンニク、玉ねぎなど消費量が多く保存がきくものは家に常備している)。おかずはたいてい肉か魚のおかずが1、2品、野菜のおかずが2、3品、あとはスープが1品。それを白ご飯と一緒に食べる。午前中にご飯も炊いてしまい、おかずも作ってしまう。これがこの家でのこの日の昼食と夕食になる。居候中の家族の食事行動を見ていると、朝の「モン」同様に、昼食も夕食もみな自分が食べたいタイミングで、適当に台所ですでに出来上がっているおかずとごはんをよそって食べていた。家族のメンバーが家に何人かいたとしても、みんなでわざわざ食卓を囲んだりはしない。なんとも個人主義的である。一般にミャンマーでは人付き合いが「ウェット(湿っぽい、ねちっこい)」と言われるが、それとは対照的にとてもドライだった。

市場で売られる魚介類と鶏肉(2016年、ヤンゴン)

ちなみに、この友人宅ではないが(というかドーキンティン宅だが)、ふらりと家にやってきた人が、家の人に「ごはん食べたか?」と聞かれ、「いや」と答え、「食べてきな」と言われ、その家の台所にずんずん入っていて、大きなお皿に好きなだけごはんとおかず数種類を載せて、けっこうな量のごはんを食べて帰っていくというのも見たことがある。夕方の4時とかすごく中途半端な時間で、その家の家族の誰も何も食べておらず、テレビを見たり雑談したりしている状況で、その人だけが会話に参加しつつ、一人でモリモリご飯を食べていた。もしかしたら親戚なのかもしれない。そうでなくても相当親密な付き合いをしている人に違いない。なんて自由なんだと思った記憶がある。

午前中にすべての調理を終わらせる

私が見た何軒かのお宅では、午前中に買ってきた食材で全部いっきにおかずを作ってしまって、昼も夜もそれを食べるスタイルが基本となっていた。昼間や夕方になって台所に立って何か作り始める、という姿はあまり見なかった。そもそも生鮮食品は保存しようがないからだ。常温で保管できる常備菜もあるし、総菜屋も近所にあるので、実際に新しく作るおかずの種類は多くはない。メインで作るのは大量の油で煮てあるカレーである。鶏カレーか豚カレーが多く、牛肉はあまり食べていなかった。牛は一番安いはずだが、硬いのであまり人気がなく、また主食のコメが食べられるのは牛のおかげなので、牛に対してはとくに思い入れがあり、食べることに抵抗がある人もいるようだ。あとはゆで卵(アヒル)のカレーも定番である。鶏の卵よりも気持ち大きめである。魚のカレーもある。

料理が得意なドーキンティンは、スーパーマーケットで購入した韓国産?キムチに感動し、自家製キムチにチャレンジしていた。これがけっこうおいしくて、私が行くたびにキムチを食べさせてくれた(常温で置いていたのだろうか?)。そのほかンガピーという魚醤でニンニクや小魚を炒めたふりかけのようなものも保存がきくので大量に作っておく。私が日本に帰国するときなどはビニール袋に大量に詰めたものを持たせてくれた。

日本だと昼と夜が一緒ということはあんまりないというか、なんとなく昼ご飯と夜ご飯は分けて考えることが多いように思う。とくに夜ご飯は特別というか、三食の中でもしっかりとるイメージである。自分の母親を思い出しても、夕方ぐらいからから揚げやとんかつなど、メインのおかずを作っていた。そしてみんな揃って「熱いうちに」食べるのである。夜ご飯の献立の特別感とともに、夜ご飯は家族そろって食べるという刷り込みがあったので(サザエさんやちびまる子ちゃんの食事の風景を見続けているから?)、居候宅で夜ご飯ですらみながバラバラに食べるのはちょっと驚きだった。

朝にだいたいおかずを作ってしまえば、もう夜ご飯の献立にいちいち悩まなくてよい。これが当たり前なので、昼と一緒かよ!というような文句を言う人もいない。電子レンジ(誰も持っていなかった)で温め直すことも、ガスで温め直すこともなく、どのおかずも冷めた状態で食べるのが普通だった。この「冷めてもおいしい」というのがミャンマー料理の特徴かもしれない。ごはんも朝炊いたものなので、もう冷たくなっている。冷めたごはんと冷めたおかずを昼と夜に食べる。言葉でうまく表現できないが、ミャンマーの油たっぷりで味の濃いおかずには、この冷めたパサパサのごはんがちょうど合うのである。スープのような汁ものも冷めたままである(食堂だとアツアツが出てきて、スープはやはり熱い方がおいしいが)。アツアツのうちに食べなくてもよいので全員集合することもなく、各人が好きな時に台所でよそってきて、食べればよい。

町の青空食堂でも、野菜や肉、魚のおかずがずらりと並んでいる。
すべて冷めているがどれも味が濃くておいしい。(2009年6月、ヤンゴン)

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あらためて写真を見返していると、ミャンマー料理が食べたくなってきた。この数年のあいだに近代化が一気に進み、食文化にも変化がありそうだ。ロッテリアやケンタッキーはかなり前から入っていて、ローカルメニューを味わえる。私もときどき食べていた。ミャンマー情勢を思えば胸が痛む日々だが、とにかく一刻も早く以前の生活が戻ることを心から願うだけである。

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